ユリは猫にとって毒性が強く、1~2枚の葉や花びらの誤食でも重度の障害が出ます。
『誤食』と言っても実際に摂取した量は不明なことが多く『植物で遊んでいた…』『植物をかじった跡があった…』も注意が必要です。
身近な植物だとチューリップもユリ科に該当します。
ユリ中毒の症状は活動性低下、流延、嘔吐、食欲不振です。
ユリ毒を摂取して1~3時間で発症して、2日間程度腎障害をもたらします。
重度腎障害の結果、腎臓病が生涯続くこともありますし、死亡するケースもあります。
1⃣点滴処置で後遺症もなかったケース
飼い主が帰宅した際、飾っていたユリの葉で遊んだ形跡があった。との主訴で来院されました。
≪症例≫2歳 日本ネコ メス(未避妊)
ユリ誤食時刻:不明(3~4時間前?) 体重4,2kg 症状:特になし
一応、皮下点滴を実施し自宅にて経過観察をしてもらっていた。
その10日後に嘔吐が2回あり、『ユリ中毒の後遺症“腎不全“が心配』とのことで来院されました。
体重4.1kg 体温 39.7℃
≪血液検査≫Glu 101mg/dl、BUN 25.7mg/dl、CRE 1.68mg/dl、GPT 67U/l、ALP 116U/l、Ca 11.2mg/dl、Na 156mEq/l、K 4.0 mEq/l、Cl 117 mEq/l
腎障害を疑う所見なく、発熱を伴う消化器症状(嘔吐)が見られたことから、『胃腸炎(原因不明)』の内服治療で嘔吐はなくなりました。
2⃣入院治療により中毒期を乗り切った後、慢性的な腎臓病を罹患したケース
『3日前に、お仏壇に供えしているユリの葉を齧った跡があった。本日もユリの葉を5枚程度齧った跡があり、元気や食欲がなくなり、ふらつきも見られた。』との主訴で来院されました。
≪症例≫11歳 日本ネコ 避妊メス
体重 3.5kg 体温 38.2℃
≪血液検査≫Glu 114mg/dl、BUN 71.6mg/dl、CRE 6.77mg/dl、GPT 79U/l、ALP 138U/l、Ca 13.1mg/dl、iP 6.5mg/dl、Na 149mEq/l、K 4.8 mEq/l、Cl 112 mEq/l
≪処置≫
乳酸リンゲルを持続点滴
利尿剤としてヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(ハンプ)を微量点滴
5日間の入院を経て院内での食欲もまぁまぁ安定し、腎臓パネル(BUN 37.0mg/dl CRE 2.44mg/dl)も安定したので退院となりました。
9/22 | 9/23 | 9/24 | 9/25 | 9/26 | 9/27 | 9/28 | 9/29 | |
BUN | 71.6 | 57.8 | 37.0 | 32.0 | 37.0 | – | – | 39.2 |
CRE | 6.70 | 4.13 | 2.50 | 1.96 | 2.44 | – | – | 2.77 |
退院後1か月して血液検査のタイミングがあったので腎臓パネルをチェックしたところ、BUN 43.4mg/dl、CRE 3.22mg/dlでした。
1年以上前から腎臓パネルが高値であったこの猫ちゃんにとって、今回のユリ中毒は腎臓に負担をかけ、以前から罹患していた腎臓病『慢性腎臓病』の悪化を招いてしましました。腎臓病が悪化するときには倦怠感、悪心を伴い食欲低下がよく起きます。頻回嘔吐する猫も多いです。この猫ちゃんも腎臓病が悪化することで食事量がぐっと落ち、やせてしまいました。今では自宅での皮下点滴を継続することで食欲は安定していますが、まだまだ不安な状況は続きます。
3⃣重度腎不全がユリ中毒により悪化し死亡したケース
お仏壇に供えたユリを齧って以来、元気がなくなってしまった。との主訴でぐったりした状態のネコさんが来院されました。
≪症例≫16歳 ロシアンブルー 避妊メス 体重2.9kg
≪血液検査≫Glu 88mg/dl、BUN 140mg以上/dl、CRE 20mg以上/dl、Na 135mEq/l、K 5.1 mEq/l、Cl 97 mEq/l
この猫ちゃんは元々慢性腎臓病を患っていて、自宅にて療法食、サプリメント、自宅での皮下点滴を継続していました。深刻な状況でしたので入院中に体調急変する可能性をお話ししたところ、自宅療養を続けるとのことでした。翌日、亡くなったとの連絡をいただきました。ユリ中毒なのか慢性腎臓病の悪化なのか詳細は分かりませんが、家族に看取られ安らかに旅立ったとのこと。
その他 アジサイの誤食
サジサイも猫に中毒を起こす植物の1つです。
原因物質は分かっていませんが、消化器障害、神経障害を起こします。
≪主訴≫帰宅したら数枚アジサイの葉を食べていた。とのことで来院
≪症例≫5歳 日本ネコ 去勢オス 体重 7.92kg
症状もなく元気!!とのことで、皮下点滴を実施し、数日間の胃腸薬