皮膚が赤くなった…、皮膚に湿疹ができた…、皮膚にイボができた…、皮膚にシコリができた… ワンちゃん ネコちゃんの体を撫でる際や、ワンちゃんネコちゃんが体をかゆがったり、出血が見られたり…様々なタイミングで皮膚の異変に気づくと思います。

動物病院では数々の皮膚疾患に遭遇し、外観『見た目』で診断・治療を行うこともありますが、イボ、シコリについては外観『見た目』で診断を下すことはあまり良いことではありません。皮膚のイボ・シコリを専門に見ている獣医師でも外観『見た目』で診断はできないことが多いのです。

外観は似たシコリでも性質が異なるケースが多々あります。『腫瘍』にも良性・悪性の区別があるのは有名ですが、『悪性』の中にも良いもの(悪性度が低い)~悪いもの(悪性度が高い)があります。

下の写真では、ワンちゃんの背中に大・中・小 3つのシコリが見られます。

トイ・プードル(12歳、メス(避妊済み))の皮膚に生じたシコリ

大きなしこり、中くらいのシコリ、小さなシコリ…いずれも似ているような…似ていないような…  病理検査の結果、良性腫瘍と非腫瘍性病変の併発でした。

毛包上皮腫≫ 毛包への分化を示す良性の腫瘍性病変。不完全切除では再発しますが、完全切除されれば予後は良好です。全身の皮膚どこにでも発生する可能性があり、複数個所に発生することも多いです。

皮脂腺過形成≫ 皮脂腺が発達したもので『腫瘍』ではありません。

下の写真では、背中のシコリから出血しており怪我?ケンカ?膿瘍?腫瘍…??と様々な原因を考える必要場あるのですが、これも外観『見た目』で診断はできません。 結果的には上の写真のシコリと同じ≪毛包上皮腫≫でした。

バセット・ハウンドの皮膚に生じたシコリ

続いて、似ているようで性質が良性/悪性、全く異なる症例です。

トイ・プードル(2歳、メス)皮膚のシコリ『1か月前、急にシコリが出現した』との主訴で来院 
トイ・プードル(7歳、オス(去勢済み))皮膚に生じたシコリ

皮膚組織球種≫基本的には良性腫瘍で、数か月で退縮・消失することが多い。写真の症例のようにイボ状のこともあれば、イチゴ状の赤いシコリを形成することもあります。急速に成長し円形、ドーム状の1~2cm程度のシコリを形成することが多いです。オスでの発生が多く、雑種犬より純血種犬での発生が多いです。老齢では、若齢と比較して退縮・消失まで時間を要すると聞いたことがありますが、実際には年齢での決まりはないと思います。

皮膚肥満細胞腫≫皮膚に発生する悪性腫瘍ですが、ほとんど進行せず良性に近いものから転移・浸潤する悪性度の高いものまで様々です。そのまま放置すると周囲に転移・浸潤するリスクや、シコリから炎症物質が放出されて健康を害するリスクがあるので良性に近い(良性の挙動)のシコリでも外科切除が適用になります。肥満細胞腫は『細胞の詐欺師』の異名を持つほど形態変化を起こします。悪性腫瘍に分類されていますが、内科治療のみでも縮小したり、悪化(増大・転移・浸潤)しないものもあるので、手術しなくても良いのでは…!?と聞かれることがありますが、当院では手術をお勧めしています。

皮膚肥満細胞腫切除手術の概要を紹介します。(閲覧注意!!!!)

①手術前にシコリ近辺の剃毛

②手術部位の消毒、切除領域のマーキング

③手術開始!!再発を防止のため、マージンをしっかり確保(シコリを中心に半径2~3cm、深部マージンは筋膜を一層切除します。閲覧注意!)

さて、他にも様々なシコリ(悪性/良性)があります。

『毛芽腫』『皮脂腺腫』『黒色肉腫』『扁平上皮癌』…

シェルティー(6歳、オス)の頭部皮膚に生じたシコリ
雑種犬(13歳、オス(去勢済み))の頸部皮膚に生じたシコリ
ヨークシャーテリア(14歳、オス)の左手親指爪床のシコリ
シーズー(10歳、オス)の左足に生じたシコリ

今までで最長のブログになりました。 読んでいただきありがとうございます。

最後に・・・皮膚にシコリを発見すると居ても立っても居られない気持ちはわかります。 動物病院に電話相談しても悪性/良性の判断はできないことはご理解いただけたかな・・・と思います。ブログに記載した内容は私個人的な意見で、獣医師により多少意見が異なることはご容赦ください。このブログが皮膚のシコリを発見した飼い主様の判断基準や、より早期に動物病院へ行こう!!と思っていただける材料になれば幸いです。