歯の根元(根尖部)周囲に膿がたまって、周囲の組織が壊れてしまう状況を根尖周囲病巣と言います。
進行すると歯を支える骨に瘻管(ろうかん:膿の出る管)ができ、皮膚に穴が開き、膿が出るようになります。出血を伴い血膿が出ることがあります。
主な原因は歯周病の悪化や、歯髄炎により引き起こされます。
放置すると慢性的に膿が出続けます。
『左の頬が急に腫れた!!』との主訴でご来院いただいた症例と、『目の下の傷が治らない』と相談に来た症例です。
【症例1】
雑種 12歳(メス避妊手術済み)
体重 6.7kg 軽度僧帽弁閉鎖不全症がありますが、一般状態良好のワンちゃんです。
『左の頬が急に腫れた!!』とのこと。
腫れた場所に目立った皮膚炎などは見当たりません。口腔を確認すると歯石の沈着が中~重度ありますが、頬の腫れを起こすほどの歯肉炎は確認できませんでした。
ですが・・レントゲンでは歯根尖膿瘍を広範囲に認め、奥歯3本を抜歯処置しました。
抜いた歯には、見事に虫歯になっており、歯髄が真っ黒になっていました。
抜歯後は歯肉を縫合し、処置完了としました。
【症例2】
ジャックラッセルテリア 9歳(メス避妊手術済み)
体重6.5kg 歯磨きガムを1日2回食べ歯周病予防には気を付けているワンちゃんです。
『目の下の傷が治らない』と相談に来院されました。
口臭:なし。目立った歯肉炎:なし
外観からは歯肉炎など、著しい異常はありませんでした。
しかし、レントゲンで患部を確認すると・・・
根尖周囲病巣が確認され、抜歯処置を行いました。
抜歯後、目の下の傷はなくなりました。
抜歯した歯を確認すると、歯髄(歯の内部にあり、神経や血管が分布している)が黒く変色し、黴菌が歯の内部を蝕んでいたことが分かります。
通常、今回抜歯した第4前臼歯は根っこが3つあり、抜歯の際には歯を分割して抜歯します。歯根のグラグラ具合によって分割しないで抜けることもありますが、根っこが折れずに抜歯できるようにあえて分割して抜歯します。
【所感】
上記2症例はいずれも、外観では根尖周囲病巣を見落としてしまう可能性があります。
飼い主様の多くは歯磨きの重要性を認識しているように感じますが、歯磨きガムの多給は過剰に歯の表面を削り落とす事につながるので注意が必要です。
私が大学生の頃、『ペットの長寿には歯磨きが大事!』と力説する先生がいました。今はワンちゃんだけでなく、ネコさんも歯磨きをする時代です。歯磨きがどれほど長寿に貢献できるか即答できませんが、日常ケアを頑張っていただけたらと思います。
外観からは問題なさそうな歯でも、根尖周囲病巣はとでも身近な疾患です。
口臭、歯がグラグラする、鼻炎が治らない・・・など気になる症状がありましたら早めにご相談いただくと良いと思います。