俗にいう『脱肛・脱腸』です。

肛門から粘膜が出しまう状況です。

犬でもネコでも起こります。まだ幼い1~3か月齢では時折見られ整復すると治るケースが多いです。直腸のポリープや、会陰ヘルニア、手術後など・・・病因・原因がある場合には再発し難治性のこともあります。

腫瘍(リンパ腫)に伴う肛門脱の症例です。

当院で確定診断が判定できず消化器専門病院へ行っていただいた症例です。

【症例】

4歳の元気なM.シュナウザー(被毛は白色) 去勢オス 体重7.0kg 

初めの症状は確定診断2か月前まで遡ります。

『昨日から排便後に肛門が出っ張ったままになっている』とのことで来院

肛門脱 肛門粘膜が外に出ており、粘膜の色も良くない状況

肛門脱は、日頃から排便時に力んでいたり(便秘、便が固い、便が大きい)、怒りん坊(よく吠える)さんで時折遭遇する症状です。このワンちゃんは排便もスムーズで、怒ることもない!という危険要因をあまり持っていないワンちゃんでした。

肛門から粘膜が長時間出ていると良いことはないので、先ず整復し、再発防止のために肛門を1日縫合しました。

肛門脱を整復して1日経ちました。肛門脱は起きていません。

その後約1か月、肛門脱は起きずに日常生活を送っていた矢先・・・

『昨夕から肛門脱が再発している。排便は通常通り出来ている』とのことで来院

直腸をチェックするとシコリ?ポリープが確認され、精査のため消化器専門病院を紹介させていただきました。

消化器専門病院の診察まで約1か月を要しました。その間、肛門脱を繰り返していましたが、自然に戻る状況でした。また、顎のリンパ節が腫れ始め目の周辺も腫れがみられ始めました。

専門病院を紹介してから受診するまで時間がかかってしまいましたが元気な状態で専門病院に行っていただき血液検査、エコー検査、レントゲン検査、内視鏡検査及び消化管の生検(採材)を実施

1週間後に『消化管型リンパ腫(T細胞 大細胞性/高グレード)』と診断されました。

抗がん剤(L-アスパラギナーゼ)治療が開始され、肛門脱やリンパ節の腫れ等の症状は消失しました。

抗がん剤治療をL-アスパラギナーゼ(毎週)からニドランACNU(3週毎)に変更し、下痢が時折見られた程度で大きな副作用もなく元気に日常生活を送っていました。

治療開始から5カ月を迎えるころから顎のリンパ節の腫れが再発し、目(結膜)の充血が見られるようになりました。

抗がん剤の変更等治療方法を模索しましたが著効する治療はなく、治療開始から6か月を目前に体調が悪化し他界されました。

亡くなる3日前まで元気に日常生活を送り、家族に見守られ自宅で永眠されたとのこと。

リンパ腫の分類には腫瘍化する細胞(由来細胞)によってB細胞・T細胞に分類されます。様々な型があるのですが≪“B” is bad. “T” is  terrible. 『B細胞リンパ腫は悪性 T細胞リンパ腫はさらにひどい』≫と言われます。今回の“T”細胞由来のリンパ腫は強敵で完治することは極めて困難な悪性腫瘍です。

約6か月の闘病期間ご家族で悩み、絶望と言えるくらい苦しい時間だったかもしれません。家族全員で悪性腫瘍と向き合ってワンちゃんに寄り添い過ごした時間、少しでも動物病院スタッフが役に立てたなら幸いです。

温かいご家族と過ごした4歳6か月の生涯はきっと幸せに満ちた時間だったことでしょう。心からご冥福をお祈りいたします。