半導体レーザーは手術の際に皮膚切開したり出血を止めたり、体の外から患部に照射して関節痛などの痛み軽減に用いたり、緑内障の治療など…様々な用途で用いられています。
当院の診療においても手術等で日頃からレーザーを使用しています。
【症例①】
レーザーにより腫瘍を蒸散させた症例
体重 18.0kg シベリアンハスキー 避妊メス 15歳10か月
『右手のシコリから出血した。生活に支障の出ない治療法は無いか・・・』と相談のあった症例です。
出血する3か月前にはシコリを認識はしていたのですが、通常の生活でも筋肉・骨格の衰えを感じる高齢ワンちゃんに対してシコリの手術をなるべくしたくない(通常、多くのケースで手術なんてしたくないですが…)との思いで生活に支障が出るまで経過観察をしていました。
先日のシコリから出血が起き、どうするべきか相談で当院へ来院されました。
1週間毎にレーザー治療を4回実施することにしました。
レーザー処置前の状況が下の画像です。
1回目のレーザー治療後1週間たった様子。この後2回目のレーザー治療です↓。
2回目のレーザー治療後1週間たった様子。この後3回目のレーザー治療です↓。
3回目のレーザー治療後1週間たった様子。この後4回目のレーザー治療(最終回)です↓。
4回目の処置後も患肢を着地させると痛みがあり、ビッコガかなり明瞭です。飼い主様は皮膚の再生が起こるのか、また、このビッコは治るのかとても心配されていました。
この後、毎日自宅でバンテージ交換を行い、3日~7日おきに来院いただき患部のチェックを実施しました。
最初のレーザー治療から2か月で歩行は良好で、痛がる様子もなく日常を過ごせるようになりました。
≪所感≫
4回目のレーザー後、皮膚が化膿し、皮膚の再生と歩行が正常化するまでに時間を要した(3~4週間ほど)。飼い主様は相当心配であったと思います。手術でシコリを拡大切除した場合と今回の4週連続でレーザー治療をした場合の比較ですが、費用に関しては手術のほうが数万円高くなると思います。治療期間は手術のほうが短期だと思います。問題は手術で指を切除した後の痛みや被歩(ビッコなどの歩行障害)です。今回のシコリは体重がかかる第2指でしたから、手術で第2指を失った場合残りの指で体重を支えるのか困難になり被行が生涯続いていたかもしれません。4回のレーザー治療では毎週の通院は大変だったと思います。毎回お預かり時間は3時間程度で、その間に軽い鎮静処置と局所麻酔でレーザー治療を実施しました。入院が不要なのでほぼ日常通りの生活を送っていただけるのはメリットであったと思います。
高齢(13歳以上)のワンちゃん、ネコちゃんの治療に関して多くのケースで『もう年だから手術はできないですよね・・・?』『もう高齢だから手術などの治療で痛い思いをさせたくない。』との質問・意見があります。結論は各症例の健康状態、飼育状況によりまちまちです。17歳でも手術はします。
今回の15歳のシベリアンハスキーさんは元気に生活している状況でしたが、手術後の痛みによる生活の質の変化を考慮し、飼い主様と相談の上レーザー治療を行いました。レーザー処置後には毎回かなり痛みが出ますし、約2か月にわたる治療期間は色々と大変だったでしょうが、飼い主様に後悔はないと思います。もし…今後シコリが再発した場合には後悔が生じる可能性はあります。『手術で完全切除していれば再発していなかったのに…』と。
【症例②】
『上目蓋にシコリがある』との主訴でシェルティーさんが来院されました。
体重 9.5kg 去勢オス 4歳
以前から目蓋にシコリがあり、最近になってシコリが目を傷つけている様子(角膜炎)が見られるようになりました。
そこでシコリをレーザーで蒸散させることにしました。
この症例の治療法として『 手術 』か『レーザー』が選択肢だと思います。シコリはそこまで大きくなくないので、無処置で経過観察するのも1つの考えだと思いますが、このワンちゃんは徐々に角膜炎が起き目をショボショボ痛がる様子が見られたため積極的に治療することにしました。
シコリの場所にもよりますがシコリが大きいと手術が適応になるケースが多いと思います。今回のシコリは小さくレーザー処置後の瘢痕形成の影響もなく処置が可能と判断しました。
レーザー後の状態は次の通りです。処置後の痛みもなく快適そうに帰宅していただきました。
誤解を与えるといけない点が1つ!!すべてのシコリにレーザー治療が適用できるわけではありません。シコリが周囲に浸潤したり、悪性腫瘍の場合にはレーザー治療は推奨されないケースがあります。
【症例③】
逆まつげ(異所性睫毛)をレーザー治療した症例
このケースでは残念ながら再発し、眼科専門病院で再度手術を実施しましたがそれでも異所性睫毛が再発しました。
体重 5.8kg シーズー 避妊メス おっとりした性格の4歳 アトピー性皮膚炎がありアポキルという薬を1日1回飲んでます。
レーザー処置をする3か月前に『左目を眩しそうにする:羞明(しゅうめい)と言います。』との相談がありました。角膜炎を起こしており原因は逆まつげ(異所性睫毛)が原因と考えられました。逆まつげを抜き、抗生物質とヒアルロン酸の点眼薬で角膜炎は良くなりました。
1か月経ち、同じように角膜炎が起きてしまい、同様に治療し経過観察をしていました。
さらに1か月が経ち、今度は角膜炎がひどくなり角膜潰瘍になってしまいました。角膜疾患が再発することから異所性睫毛をレーザー処置により脱毛処置することにしました。
≪所感≫
レーザー処置による睫毛の脱毛は再発するケースを想定する必要があります。
『まぶた内側』に生えた睫毛をレーザー脱毛するのですが・・・ まぶたは厚みが2~4mmの薄い皮膚(粘膜)でレーザーを強く当てるとまぶたに穴をあけてしまうリスクもありますし、レーザー処置の熱で瘢痕収縮(眼瞼の変形)を起こす可能性もあります。外科手術を実施しても完全脱毛は難しく、今回の症例でも二次診療施設(眼科専門)で手術したにもかかわらず異所性睫毛が再発しました。そして瘢痕形成する可能性はレーザー処置と同様にあります。
体表にできた小さなシコリ除去や脱毛のためにレーザーを使用する際に、手術と比較した利点は第1に全身麻酔が多くのケースで不要なことです。また費用も抑えられます。入院も必要ないことが多いです。悪性腫瘍や大型腫瘍などで適用できないケースもありますが、欠点というほどのものはないと思います。小さいシコリをレーザーで蒸散させる場合シコリが跡形なく蒸散しますので『病理検査』を行うことが出来ません。それは欠点とも言えるでしょう。
手術とレーザー、どちらが適切な処置か獣医師とよく相談して選んでださい!!