犬の副腎の腫瘤 2症例

副腎という臓器があります。ステロイドホルモンを分泌する組織ですが、腫瘍化して大きくなることがあります。もし悪性の場合、ゆっくり進行し血管浸潤、転移する可能性が高いです。手術による腫瘍の摘出手術が推奨されますが、手術中の体調急変、手術の合併症等でリスクを伴う手術となります。手術に関係した死亡率は20%といった報告があり、手術をするか・・経過観察するか苦渋の選択を要するケースも多いと思います。副腎のシコリが良性を疑うケースと、悪性を疑うケースを紹介します。

【症例1】 

15才 メス(避妊手術済み) トイプードル

健康チェックでご来院いただいた際に、『やや多飲多尿かも』とのご相談があったのと、血液検査で肝臓関連項目の高値が確認されました。多飲多尿かも・・・と飼い主様が気づく場合、何かしら体調不良が起きているケースが多いです。後日、腹部エコー検査で左副腎の腫大(正常では6mm以下ですが、16mmありました。)があり、副腎機能の精査の為ACTH刺激試験と内因性ACTH測定を実施した結果『非機能性の副腎線種』を疑いました。

ACTH刺激試験及び内因性ACTHの測定結果です。

副腎が大きく腫れる病気にはクッシング症候群が有名です。腺腫(全体の約80%)、腺癌(全体の約20%)に大別されますが、このワンちゃんのケースでは副腎(左)が16mmと大きいのにコルチゾール分泌は正常範囲で、このワンちゃんが典型的なクッシング症候群とは異なると判断し二次診療施設での精査を提案しました。

約10日後に二次診療施設を受診し結果は『副腎皮質腺腫を疑う。腺癌の可能性も否定できない。』とのこと。先述したように、もしも悪性の腺癌であっても摘出手術にはリスクを伴います。飼い主様と相談の結果、経過観察(1~2カ月おきのチェック)としました。

【症例2】

13才 メス(避妊手術済み) トイプードル

『皮膚のシコリが大きくなった』との主訴で来院しました。皮膚のシコリは以前より大きくなり、シコリから化膿を伴う出血が少し見られました。そこで皮膚のシコリを手術で取り除くことを念頭に、手術前の健康チェック(血液検査)を行いました。そうすると・・症例1と似ているのですが、このワンちゃんも肝臓関連の項目に高値が見られ、後日、腹部エコーを実施したところ副腎腫瘤が確認されました。

当院での検査では正常な副腎組織とは異なる混合エコー性のシコリ(腫瘤)が確認され、二次診療施設での精査を提案しました。

後日、二次診療施設での検査でも『副腎皮質腺癌や褐色細胞腫を疑う(いずれも悪性腫瘍)』との結果でした。現在、日常生活に支障なく生活しており、ハイリスクな手術を決断することはとても勇気がいることです。今後の治療方法について、ご家族で検討したいとのことでしたので、今は経過観察中です。

副腎腫瘍が疑われる場合、腫瘍が良性か悪性化を判断する必要があります。

犬及び猫では多くが悪性と言われています。良性・悪性を判断するためにシコリに針を刺して細胞を採取する『細胞診』が指標の1つになりますが、内分泌腫瘍を疑う際に共通することなのですが、細胞診のみで良性・悪性を判断することは困難と言われていますので、血液検査、エコー検査、レントゲン検査、細胞診結果を総合的に判断する必要があります。手術を念頭に置いた場合にはCT検査も必要になります。当院では副腎周囲には主要血管が多い事、副腎を刺激することで副腎からホルモン分泌が起き血圧等の体調に影響する可能性があることから積極的には『細胞診』をお勧めしていません。