喉に甲状腺という内分泌腺があるのをご存知でしょうか?犬では甲状腺ホルモンが分泌されなくなる機能低下症が、猫では甲状腺ホルモンが分泌され過ぎる機能亢進症がちらほら見られます。今回は、犬の甲状腺機能低下症に伴う『脱毛』が見られた症例の紹介です。

症例1

10才 雑種(マルチーズ×チワワ)去勢オス

主訴:4か月前から腰の脱毛が治らない。目やにが増え、耳も痒そう。とのこと。

皮膚には炎症細胞と細菌増殖が見られました。中~高齢での脱毛所見から甲状腺ホルモン疾患を疑い血液検査も実施したところ甲状腺ホルモン(T4)がほぼ分泌できていないことが分かり≪甲状腺機能低下症≫と判断しました。

体内で枯渇していた甲状腺ホルモンを1日2回、内服薬治療を始めると発毛が見られました。下の写真は当院来院時、治療開始1か月後、治療開始4か月後です。

 当院来院時の外観です。腰部分に広範囲の脱毛があります。

 甲状腺ホルモンを補う内服治療開始後1か月。少し発毛が見られます。

 治療開始後4か月経った外観。被毛が生えそろってます。

症例2

4才10か月 チワワ オス

経緯:夏にサマーカットしてから毛が伸びない。皮膚の発疹(膿皮症)が散見されるが、発疹は治療により完治。冬になって毛は伸びてきたが、幼少期のような弱い被毛(パピーコート様の被毛)が目立つ。男性ホルモンによる脱毛を考慮し去勢手術を実施したが顕著な発毛は見られず『薄毛(弱い被毛)』が続いていた。甲状腺ホルモンをチェックすると甲状腺ホルモン分泌が少ない事が分かり治療を開始した。

 8月にサマーカットをして、10月の状況です。よく見ると腰、腕、お腹に毛がひょろひょろした毛が生えていまが、広範囲に薄毛が見られます。この時点では8月のサマーカットの影響『バリカン後脱毛』を最も疑っており経過観察としました。

 上の写真から4か月後です。だいぶ伸びましたが・・首の後ろと腰の脱毛が顕著になり、パピーコート様の被毛が続く状況でした。

脱毛が続くことから男性ホルモン・甲状腺ホルモンの関与、毛包形成異常、淡色被毛脱毛(カラーダイリューション)を疑い、飼い主様と相談し去勢手術を実施しました。

 去勢手術後3か月の状況です。やはり薄毛が続いています。

元気・食欲は良好ですが首の後ろと腰の脱毛、パピーコート様の被毛が続いていました。甲状腺ホルモンを測定すると…甲状腺ホルモンが低く、甲状腺機能低下症と判断しました。その後、甲状腺ホルモン治療をスタートするとみるみる被毛が生え始めました。

それから1年4カ月が経ちますが、甲状腺ホルモン治療は継続しており被毛は安定しています。

【甲状腺機能低下症】

甲状腺ホルモンは、心拍、代謝、毛の発育など様々な作用を持ちます。犬では甲状腺ホルモン分泌が徐々に減り、分泌が廃絶していきます。低下したホルモン分泌が回復するケースは少なく、生涯治療が必要です。中年(6才)以降のワンちゃんで遭遇する頻度が多いですが症例2のように弱冠4才でも起きます。甲状腺機能低下症の一般的な症状は痒みを伴わない脱毛、色素沈着、再発性膿皮症、外耳炎、肥満(太る)、寒がる、徐脈です。重症化するとぐったりしたり、低体温、昏睡状態になることもあります。