【チョコレート中毒】
チョコレートが犬に有害であることは広く知られていると思います。
チョコに含まれるテオブロミンやカフェインが有害成分となります。
『チョコレート』と言ってもミルクチョコレート、ビターチョコレート・・・カカオの含有量により毒性も異なります。
体重1kgあたりテオブロミンを20mg接種すると中毒を起こす可能性があり、60mgで痙攣、100mgで死亡する可能性があるとされています。
中毒症状はチョコレートを食べておよそ10~12時間でピークになり、初期症状は多飲、嘔吐、下痢、胃の拡張、過剰な興奮、頻脈、過呼吸・・・ 重症化すると運動失調、不整脈、痙攣、昏睡状態となる。また、チョコレートは脂肪分が多いためチョコレート摂取後3日間のうちは膵炎発症リスクが高まります。
9月下旬、飼い主の留守中に市販ビターチョコレートを食べたらしい。と夜間に来院されました。チョコレートを食べた時刻、量など詳細な状況は不明でしたが、約1時間前に市販チョコ(1箱80g入り)の半分以上を食べた模様・・・中毒量を優に超えていると考えられました。
14歳 オス トイプードル 体重 2.34kg
心拍・呼吸・意識レベル:正常
先ず、嘔吐を起こす処置(催吐処置)を行い、胃内に残っていたチョコレートとチョコレートの包装紙が出てきました。3~4回嘔吐が見られたのですが、食べたであろうチョコレートの推定量と比べると少ないように思えました。すでにチョコレートが胃から腸に流れている可能性を飼い主様へお伝えし、テオブロミン及びカフェインの解毒・排泄を促すため皮下点滴を実施し帰宅していただきました。
ところが・・・
翌朝6:00に痙攣のような症状が始まり、入院治療をスタートしました。
2泊3日の入院治療を経て、震えは治まり、血液検査所見も改善したので退院となりました。入院治療中、2日間振戦が残りやや高齢なこともあり今後の体調が心配な状況でしたが血液検査の数値も改善傾向が見られたので退院としました。
●症例2●
10月初旬、昨夜に市販チョコレート(カカオ88%)をほぼ1箱すべて食べたらしい。とチョコレートを食べた翌日に来院されました。このワンちゃんも中毒量を優に超えていると考えられました。症状は『昨夜からずっと興奮状態で、一睡もしていない』とのことでした。
1歳 避妊メス スピッツ 体重 7.7kg
心悸亢進(心臓バクバク)、呼吸正常、興奮しており落ち着きない(健康でも来院時に緊張で落ち着きがなくなるワンちゃんは多いですが…)。
今朝の食欲は半分程度で、嘔吐は見られていない、とのこと。
この事例においてチョコレートのカカオ割合が高く、このワンちゃんが少なくとも50gのビターチョコを食べたとすると、接種されたテオブロミン量は350mgくらいです。
体重1kgあたりテオブロミンを20mg接種すると中毒を起こす可能性があるとされているため、このワンちゃんは154mgのテオブロミン接種により中毒を起こす可能性があるのです。計算上では体重1kgあたりテオブロミンを45mg接種したことになり、あと少しで痙攣が起きていたかもしれません。
来院時の検査で、血液検査で大きな異状はなく、入院の必要はないと判断しました。
解毒・排泄を促すため皮下点滴を行い自宅で安静に経過観察することにしました。
【考察】
一般的にチョコレート中毒では食後1~2時間であれば催吐処置を行い、胃内容物が吐き出された場合、予後は良好だと言われています。しかし上記●症例1●のように催吐しても十分量が吐き出されない場合には、中毒症状を引き起こしてしまう安心できない中毒であると感じました。また、『中毒症状はチョコレートを食べておよそ10~12時間でピークになる』という文献どおりに痙攣症状が起きたことから、チョコレートを食べてしまった場合15時間は注意深い対応が必要であると感じました。