リンパ腫は中齢での発生が多いとされています。リンパ腫は『血液のガン』とも言われ、全身のどこにでも発生しうる腫瘍です。

今回は肝臓・脾臓に発生したリンパ腫について掲載します。

【症例】

柴犬 去勢オス 5歳

第0病日

『2日前から食欲及び活動性低下があり、下痢をしている。』との主訴で、普段とても元気な柴犬さんが、沈鬱な表情で来院されました。

体重 15.7kg  体温 38.0℃

血液検査では軽度貧血(PCV 39%)、血小板減少症(PLT 62000/μl)、低タンパク血症(TP 5.0g/dl、Alb 2.5g/dl)、肝パネル上昇(GPT 110U/l、GOT 105 U/l、ALP 139 U/l)、炎症マーカー高値(CRP 4.6mg/dl)が見られました。

上腹部(胃周辺)が不明瞭、脾臓の腫大

超音波(エコー)所見では、脾臓腫大、肝臓腫大、胃壁の肥厚がありました。

この日は下痢の治療として、抗生物質、整腸剤、ステロイド性消炎剤を6日間処方しました。

第12病日

前回の下痢の治療で体調は良くなったように見えたが、薬がなくなったら徐々に食欲・元気がなくなってきた。とのこと。

体重 14.6kg 体温 38.8℃

肝臓及び脾臓の腫大が継続しており、微量腹水が確認されました。

微量腹水を採取し検査したところ『中型幼弱リンパ球』があり、リンパ腫を疑いました。

第23病日

二次診療施設にて『肝臓及び脾臓のリンパ腫(T細胞性)』との診断でした。

その他DIC、非再生性貧血、腹水貯留と診断されました。

第23~27病日

入院下で抗がん剤等の治療

その後、入退院を繰り返しましたが症状は一進一退で顕著な回復は見られませんでした。

『最期は自宅で看取りたい』とのご家族のご意向で、時々当院で点滴をしながらご自宅で介助を続けていただきました。

第50日病日 

家族に見守られ天国へ旅立ちました。

今回掲載した症例の初めの症状は『2日前からの食欲及び活動性低下と下痢』とのこと。日常的に遭遇しうる症状ですが、原因が悪性の血液のガン『リンパ腫』なんて受け入れるのはとても苦しく難しかったことと思います。

まだ5才!元気いっぱい遊びまわっていたのに・・・一般的にリンパ腫は悪性腫瘍で根治することが困難な腫瘍です。中でもT細胞性はB細胞性に比べ治療が難しいとされており、当該症例も顕著な治療効果を得られませんでした。

~肝臓・脾臓型のリンパ腫について~

臨床症状としては活動性低下、食欲低下、嘔吐が見られることが多く下痢や多飲多尿が見られることもある。

血液検査では、GPT,GOT,ALP及びT-Bil、約半数の症例で低アルブミン血症、血小板減少症、白血球数増多が見られる。

エコー検査において、肝臓脾臓全体が腫大し低エコーあるいは高エコー源性に観察されることが多い。孤立した腫瘤を形成するケースは少ないが、多発性腫瘤を形成するケースがある。

治療には、抗がん剤の多剤併用プロトコールやL-アスパラギナーゼ、ロムスチンやクロラムブシルによる治療が実施されている。予後不良(積極的な治療を行っても治療成績が悪い)のケースが多いと言われ、安楽死処置がとられるケースがある。