ジアルジアは、小腸に寄生する原虫で下痢・血便を起こすことが多い。
ジアルジアによる『下痢』でも、腸から十分栄養を吸収できず低タンパク血症が起き腹水、体重低下、削痩、命に関わる場合もあります。
他の病気でも下痢は起きますが、ジアルジア感染症では下痢が引き続いたり、治療で一度良くなった後に再発したり、他のワンちゃんに伝染したり・・・注意が必要です。
ペットショップや繁殖施設、保護施設に蔓延すると、駆除が困難な原虫です。
ジアルジア症で来院するほとんどは幼少子犬です。
ジアルジアは『通常の検便』では検出できないことが多いです。ジアルジアが疑われる場合、専用検査キットやPCR検査でジアルジアを確認する必要があります。
数日間の内服治療(駆虫)で治癒するケースと、数日間の駆虫を3~4回繰り返してやっと治癒するケース、多数の薬剤を併用して治癒するケースまで様々です。
今回、治癒までに時間を要した症例を紹介します。
【症例】
マルチーズ 3か月齢 オス
1週間前にブリーダーから飼い主様宅へ来た元気なマルチーズです。
『食欲が低下し、瘦せてきた。下痢と嘔吐が見られた』との主訴で当院に来院されました。
体重 420g 体温37.1℃
ブリーダーから購入後2日間は食欲旺盛だったが、3日目から食欲が低下している様子。
排便回数が増え、飲水量も多い印象とのこと。
【検査】
血液検査 : 白血球数上昇 、 貧血 、 低タンパク血症
ジアルジア : 陽性
【治療】
腹水が見られ、幼少期の低タンパク血症も見られたため入院治療を開始(点滴、駆虫、下痢止め)
先ずジアルジア駆虫に『ドロンタールプラス』という薬を5日間使いました。この薬はジアルジア以外にも強化管内寄生虫を駆除する効果が期待できます。
4泊5日の入院治療を経て活動性・食欲や便の様子が安定したので退院としました。
退院後2週間後
体重 660g 体調は良く、元気も食欲もあるとのこと。
便性状は異常ありませんでしたが、ジアルジア:陽性でした。
そこでチニダゾールを7日間処方しました。
退院後4週間後
体重 760g
便性状は異常ありませんでしたが、ジアルジア:陽性でした。
前回の治療で便の性状が安定し、もうしばらく同じ治療を継続することにしました。
チニダゾールを再度7日間処方し,腸内環境を整えるために整腸剤を併用しました。
退院後6週間後
体重 920g 食欲もあり元気!とのこと。
便性状は良好で異常ありませんでしたが、まだジアルジア:陽性でした。
そこでチニダゾールを再度10日間とセクニダゾールを2日間併用しました。
・・・・
その後、しばらく時間が経ち・・・
体重1.6kg 体重もずいぶん増えました!!
『一般状態は良好だが、珍しく下痢を久しぶりにした』とのことで来院。
ジアルジア感染症による下痢かも?と考え検査を実施したところ・・・
ジアルジア:陰性!!!でした。
ジアルジア感染症は、治療(駆虫)が1回ではなかなか完了しない感染症です。今回の症例のように、下痢が治まってもジアルジアが潜伏感染しています。検査・治療を続けることは同居犬の有無やペットの飼育環境に免疫力の低い方(乳幼児や基礎疾患がある方など)の有無によっても異なります。今回の症例では同居犬が居て蔓延を防止するために治療を定期的に継続しました。幼少期に蔓延するのは消化管の抵抗力と大きく関連しています。多くのケースで仔犬が発症しても一過性の下痢を引き起こし、重症化することなく回復すると言われていいます。
ですから免疫が整った成犬には、ジアルジア感染は容易には起こりません。感染しても症状はほとんど出ないと言われています。
この症例において、ジアルジアを克服できてとてもよかったです。結果を見て、飼い主様もとても喜んでいました。