副腎という器官をご存じでしょうか?

腎臓のそばにあってステロイドホルモン(ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)を分泌する器官です。

アジソン病は副腎が徐々に委縮して、副腎から分泌されるステロイドホルモン分泌が不足・廃絶していく病気です。

発症の要因には自己免疫、感染症、腫瘍、クッシング症候群治療薬の副作用などがあります。多くの場合原因不明の特発性が多いです。

多くのケースでミネラルコルチコイド、グルココルチコイドの両方が分泌不足になり、虚弱、体重減少、食欲不振、嘔吐、下痢、血便、低血圧、徐脈、低体温、震え、痙攣などの症状が出ます。症状はゆっくり進行(悪化)します。

副腎から分泌されるステロイドホルモンはミネラルコルチコイド、グルココルチコイドの2種類があるのですが、通常は両方とも分泌が低下します。稀にミネラルコルチコイド分泌は保たれ、グルココルチコイドのみ分泌低下するケースもあります。

多くのケースにおいて血液検査で電解質(Na、K、Cl)異常が顕著に出ます。

症状は徐々に進行し、動物病院で異常が確認されるケースの多くは入院治療が必要な状況です。直ちに点滴をスタートして、アジソン病による多臓器への影響を最小限に抑える必要があります。

【症例】

アジソン病が発覚する1か月前には、食欲低下、週に2から3回の嘔吐、異常に寒がるとの特徴がありましたが、病気を特定することはできませんでした。食欲低下に対し胃腸薬で経過観察していたところ・・・フラフラして立てない!!と状況が急に重篤になり来院されたケースです。

 犬(トイプードル) 去勢オス 11歳

 体重:5.9kg 体温:35.1℃

 心拍:50回/分(徐脈)

 血液検査では、腎臓関連の項目が顕著に異常で当初急性腎不全を想定し、即座に入院治療を開始する必要がありました。

【来院時(第1病日)の血液検査】

 BUN 103.3mg/dl  CRE    5.42mg/dl

 ALT    26U/l   ALP    102 U/l

 Na     135 mEq/l    K      9.3 mEq/l     Cl     109 mEq/l

 入院治療を経て、体調は安定し、食欲も少し出てきました。腎臓の状況も改善傾向なのに電解質異常が続いており、アジソン病と仮診断しました。

 アジソン病治療を開始すると、体調が急激に改善し、1週間の入院治療を経て退院となりました。

 しかし、退院後もなかなか電解質異常は安定しませんでした。

【第20病日の血液検査】

BUN  28.2mg/dl

ALT    19U/l    ALP    183 U/l

Na     134 mEq/l     K      6.2 mEq/l      Cl      99 mEq/l

 薬をミネラルコルチコイドの薬を増量したり、グルココルチコイドを増量したり・・・投薬に係る飼い主様の毎日の苦労もひとしおだったと思います。

【第160病日の血液検査】

BUN  29.4mg/dl

ALT    14U/l     ALP    143 U/l

Na     138mEq/l     K      5.8 mEq/l      Cl      94 mEq/l

 内服薬から注射タイプ(21~28日毎に注射)にしてだいぶ安定しました。

【第190病日)の血液検査】

BUN  18.8mg/dl

ALT    35U/l     ALP    26 U/l

Na     146 mEq/l     K       5.4 mEq/l      Cl      112 mEq/l

現在は食事も安定し体重も増えました。

 ・DOCP注射(28日毎)

 ・プレドニゾロン 1.25mg/HEAD SID

適切な投薬治療を継続すると予後は良好なケースが多いです。

ただし、ミネラルコルチコイドを内服薬で治療する場合費用がかなりかかります。

薬の量は体重により異なりますが体重10kg程度だと毎月20,000~30,000円程度(高い!!)かかると思います。今回紹介した症例では内服薬から注射タイプに変更して治療費を抑えることができました(注射だと体重10kg程度で毎月15,000円程度)。注射タイプのメリットは日々の投薬が減る or なくなる。デメリットは定期的に通院して注射が必要なことでしょうか。

先述した通り、この病気はゆっくり進行(悪化)します。

発症1か月前から食欲低下や寒がるといった特徴が出ていました。

比較的稀な内分泌疾患で、根気強い治療が必要な病気です。各々の症例に合った治療方法が安定すれば長期生存が可能です。体調の変化がありましたら早めに動物病院を受診しましょう。