膀胱結石、尿路結石あるいは下部尿路疾患と言われ、日常的に遭遇する疾患の1つです。
症状は『頻尿』『血尿』が一般的です。
猫に頻尿症状(トイレに何回も行く・・・外陰部やペニスを執拗に気にしている・・・排尿姿勢をするが尿が出ていない・・・といった相談が多いです)が見られたら注意が必要です。動物病院へ連絡しましょう。
しかし『頻尿症状』があっても、その原因は様々です。年齢、性別、基礎疾患、性格の影響も考える必要があります。突然発症することが多いと思います。今回は、ネコの膀胱・尿道結石により尿がしっかり出ない状況(不完全閉塞)になった症例2例の紹介です。
【症例1】
猫(ブリティッシュ・ロングヘアー) 1歳 去勢オス
主訴:時々血尿が出て、トイレの際排尿姿勢が長い。
【超音波検査】
膀胱に約2mmの膀胱結石が複数ありました。
【対応】
尿検査では結石・結晶が確認できず、膀胱内にある膀胱結石がどのような成分か不明だったため、先ず食餌療法で膀胱結石が小さくなるか様子を見ることにしました。食餌療法で膀胱結石が小さくなったり消失することもあります。また、食餌療法でも改善が見られない場合は手術で摘出する必要があります。
その時飼い主様へ提案したのが次の療法食です。画像以外にも尿路結石の治療用フードは各社色々製造しています。動物病院により推奨しているフードが違うかもせれません。メーカーによる差を考えるより、ネコちゃんが無理なく続けられる治療食を選ぶと良いと思います。
1か月後も膀胱結石の大きさに変化が見られず手術で摘出することにしました。
【手術】
手術直前のレントゲン画像
膀胱に4個、尿道6個程度の結石が確認されました。
尿道内の結石を膀胱に移動させ、膀胱から結石をすべて取り除き手術を終了しました。
摘出した膀胱結石を検査したところ『シュウ酸カルシウム』でした。
【シュウ酸カルシウム】
動物性脂肪・タンパク質が多いと出来やすいと言われていますが、体質が大きな要因となり、食生活を変更しても再発率の高い結石です。
【手術後】
手術後2週間で排尿の様子を確認し、体調も良好とのこと。
皮膚の手術跡もきれいになっているので抜糸を行い、一応治療終了としました。
今回の症例は手術後、根気強くシュウ酸カルシウムの再発予防フードを続けていただき、定期的な尿検査、超音波・レントゲン検査で経過をチェックすることをお勧めしました。
膀胱・尿道結石の既往歴があるネコさんの中には尿路閉塞という尿が出ない症状を経験する場合が少なくありません。尿路閉塞は腎障害(腎不全)を引き起こし長期、生涯付き合っていく病気に進行するケースがあります。腎障害を患うと尿路結石の予防フードを食べるべきか…腎臓病用のフードを食べるべきか…とても苦慮します。まめに動物病院へ相談してください。
【症例2】
猫(マンチカン) 4歳 去勢オス
主訴:昨夜、頻回トイレに行き排尿姿勢をするが尿が出ていないことに気付き夜間救急動物病院へ行った。帰宅後もペニスから尿がポタポタ垂れる状況が続いている。との主訴で当院へ来院。夜間救急動物病院からの連絡内容によると急性腎不全の状況で、排尿と静脈点滴を実施したとのこと。
【超音波検査】
膀胱に細粒状の膀胱結石が複数あり、尿道も拡張していました。
【対応】
尿道に結石が詰まって排尿が十分できない状況だったため、ペニス先端から細い管(カテーテル)を用いて尿道内に詰まっている結石を膀胱へ流し、尿が出る状況にしました。
急性腎不全という予断を許さない状況であったため、症例1のように1か月経過観察する時間的余裕はなく手術で摘出することにしました。
尿道閉塞によって十分尿が出ない状況のレントゲン(膀胱にもいくつか結石が確認できます。)
カテーテルを用いて尿道内に詰まった結石を膀胱へ流した状況(膀胱内の結石が増加しています。)
【手術】
膀胱から結石をすべて取り除き手術を終了しました。
摘出した膀胱結石を検査したところ症例1と同様に『シュウ酸カルシウム』でした。
【手術後】
手術後1週間で排尿の様子を確認し、体調も良好とのこと。
手術後2週間で手術跡もきれいになっているので抜糸を行い、定期的な血液検査、尿検査 そして食餌変更には細心の注意を払うようお伝えし一応治療終了としました。
尿道閉塞によって排尿が出来ずに命を落とすネコちゃんもいます。
今回の症例は尿道閉塞によって急性腎不全に陥り夜間救急動物病院を受診しました。その後、手術を経て腎臓の状況は改善傾向を示し、血液検査では異常が確認できないまでに回復してくれました。しかし、今後も腎機能障害が出る可能性が高く、膀胱及び尿道結石が『シュウ酸カルシウム』で再発率の高い結石であることから注意が必要です。
飼い主さんの話では『習慣として煮干しをおやつで与えていた。』とのこと。煮干しはシュウ酸カルシウム結晶の発生を助長しますので食生活の見直しもお願いしました。
症例1と2とで、同じ成分『シュウ酸カルシウム』結石が採取されました。結石の成分は同じでも症例1は『固い』結石でした。一方、症例2は指先で擦ると細かく砕ける『脆い』結晶でした。尿路内で結晶化する速度、尿のpHなどが形状形成に影響するのかもしれませんが膀胱結石の大きさ、固さ、数によりシュウ酸カルシウム結晶による症状にも差があるのかもしれません。
頻尿・血尿が判明したら、早めに動物病院へ相談しましょう。