『うちの猫が吐いてます!』と言った相談を良く受けます。長毛種をお飼いの方は毛玉を月に1~2回吐くのは普通でしょうし、私たち≪ヒト≫と比べると嘔吐が日常的に見られる動物です。一方、我が猫の嘔吐を見たことがない!という方もいらっしゃるでしょう。『嘔吐』を放っておいて良いのか…すぐ動物病院に連れていく必要があるのか…私達獣医師でも判断が難しいです。

今回『突然の頻回嘔吐』を呈した症例を2つ紹介します。

症例1 ひも状異物を誤食した猫さん

 1歳6か月 オス(去勢手術済み) 体重5.12kg

 『2日前から1日2回嘔吐している。昨日から食べては吐くを繰り返していて、今日から元気がない』との主訴で来院。

 来院当日は皮下点滴と嘔吐止めの処置を実施したところ、点滴処置した日の午後からすごく元気になって食べても吐かなくなった。とのこと・・・

でしたが、翌日の夜から再度嘔吐が始まったとのことで初診から2日目に来院され検査を実施したところ腸に何か詰まっている(閉塞)状況があり、異物を誤食したことによる腸閉塞と判断し、手術を行いました。

手術でお腹の中を探っていきます。先ず胃のチェック(胃に穴を開けたり、切ったりせずに胃を外から触って中に異物がないか確認します)。続いて腸のチェックです。腸がアコーディオン状に固まっています。中には硬い物体が確認出ます。

腸を切開したので手術後2日は絶食。

手術後3日目に食事を開始して問題なかったので退院となりました。

原因のヒモは靴ヒモ?アウトドアで使うような丈夫なヒモ?でした。

猫はビニール袋とか毛糸とか好きですから、注意が必要ですね。

症例2 腫瘍(リンパ腫)が消化管に発生した猫さん

 9才8ヶ月 メス(避妊手術済み) 体重3.2kg 体温38.1℃

 エイズ及び白血病ウイルス:陰性    猫コロナウイルス抗体価:<100倍

 『元々日常的に嘔吐が見られるネコさんだが、2週間前から嘔吐頻度が増えた』との主訴で当院初診。

 血液検査で大きな異状なし。超音波では胃腸内に液体が溜まっている状況でした。

 超音波検査で腸の完全閉塞はしていない様子だったので初診日は点滴と消化管を動かす治療を実施したところ・・・

 翌日、飼い主様は『元気になりました!!食欲も少し改善しました!!』とのこと。ですが超音波検査では胃腸内の液体は残っていました。この日は点滴と消化管を動かす治療を継続しました。

 また次の日は『少量食事はしたが、気持ち悪そうに口をくちゃくちゃ、ぺちゃぺちゃする』とのこと。冒頭にも記したようにいろいろな原因で『嘔吐』が起きますが、ネコちゃんで日常的に起きる嘔吐とは様子が違い、明らかに重篤な経過だったのでその日の夜に手術(腸の閉塞部位を取り除く)することにしました。

腸の閉塞部位はお腹の中で腹膜や膵臓と癒着しており、閉塞部位の切除には一部膵臓も部分切除する必要がありました。手術後から鎮痛剤と高栄養点滴を始め、手術後3日目でお水少量からスタート、4日目から流動食をスタート、5日目に回復傾向だったので退院としました。退院後1週間はトロトロ状態のご飯で、さらに1週間はふやかしフードをあげるように飼い主様へお願いしました。

切除された消化管を病理検査(外注検査)に出すと結果は『リンパ腫』悪性腫瘍でした。

腫瘍と聞くとガン細胞が大きくなるイメージが強いですが、大きな塊を形成せず、消化管の動きを邪魔するような症状を起こすことがあります。

手術後12日から抗がん剤を始めました。

手術後7か月経過した現在も抗がん剤を続けており、大きな副作用もなく元気に生活しています。

さて、ネコちゃんの嘔吐について2症例を紹介しました。

異物誤食、腎臓病、ストレス、毛玉など様々な原因で嘔吐する動物ですが、特に体重低下を伴う場合は早めに動物病院の受診をお勧めします。