こんにちは

院長の石川です。

『皮膚にシコリが見つかった』『昔からあるイボが大きくなった』などオーナー様が気付く体表腫瘤の他に、レントゲンや超音波検査で体内腫瘤を発見することもあります。

一言で『腫瘤』といってもイロイロですから、これから数回に分けて腫瘍についてブログ掲載したいと思います。

1 総論

(1)診断学総論

先ず腫瘍とは「体内の細胞がどんどん増殖する状態」です。正常細胞が何らかの原因で増殖する際、本来の形態、機能は維持され過剰増殖しないよう増殖がコントロールされます。一方、腫瘍は無秩序、無目的にどんどん増殖し生体機能に悪影響を与えるようになります。

腫瘍は発育形態、増殖率などの動態により良性と悪性に分類され、悪性は増殖性、再発性、転移性が強いとされています。

  良性腫瘍 悪性腫瘍
発育形態 膨張性 浸潤性
周囲との境界 明瞭 不明瞭
発育速度 遅い 速い
増殖性 弱い 強い
再発性 弱い 強い
転移性 なし あり

悪性腫瘍を構成する細胞により2つのタイプに分けられます。
・ 独立細胞腫瘍:細胞自ら独立して機能する細胞腫瘍(リンパ系腫瘍、肥満細胞腫)
・ 固形がん:独立細胞腫瘍以外の悪性腫瘍(癌、肉腫)

動物病院で「腫瘍が大きくなってきました」と言うのは、腫瘍を構成する細胞集団の中に細胞分裂を繰り返す細胞が含まれていることになります。ただ『シコリが大きくなってきた』という場合には、炎症で腫れているのか、液体がたまっているのか(私たちも鉄棒の練習で手にマメが出来て水がたまりますよね!)、血液がたまっているのか、膿がたまっているのか・・・様々な状況を考える必要があります。
正常組織では適切な細胞数が保たれますが、腫瘍では秩序、恒常性が失われ、無目的に過剰増殖し続けることになります。
細胞増殖モデル
・G1期:DNA合成準備期
・S期:DNA合成期
・G2期:分裂準備期
・M期:分裂期
・G0期:休止期(M期とS期の間で停止した状態)

正常細胞にも分裂を繰り返す腸の細胞、骨髄の細胞やほとんど分裂せず休止期の筋肉の細胞など組織により構成細胞は異なります。腫瘍細胞においても分裂細胞群と休止期の細胞が混在していますが、分裂細胞群の割合が増殖速度、増殖率に影響を与え、悪性度の指標になります。

≪転移経路≫

一般的に良性腫瘍は周囲組織を破壊することなく膨張性発育するのに対し、悪性腫瘍は浸潤性発育の形態をとり、周囲組織を破壊しながら明瞭な境界を作らず増殖します。
がん浸潤メカニズムは現在なお究明さていませんが、無秩序に動き始めたがん細胞は周囲組織、血管、リンパ管、神経周囲などに浸潤していく傾向があり「転移」の道をたどることになります。

血行性転移では、血流に乗ってまず最初に通過する臓器に転移するとされています。つまり、お腹の中のがんは門脈(小腸から肝臓へ流れる血管)を通り肝臓へ転移し、お腹以外のがんは全身の血流が通過する肺への転移が多いことになります。一方、がん転移は血流だけでは説明のつかない臓器特異性(腫瘍によって転移する臓器に特徴がある事)の転移を起こします。
リンパ行性転移では、がん細胞はリンパ管を通り、近隣リンパ節を侵襲しながら遠隔リンパ節へ転移巣を形成するとされています。
播種性転移では、がん組織表面の膜を破って出てきたがん細胞が、そのまま転移巣となるものです。播種は進行した消化器癌、卵巣癌、肺癌で見られ、炎症(がん性腹膜炎・胸膜炎)などを引き起こします。