腸閉塞(イレウス)と聞いて先ず脳裏に浮かぶのは『異物誤食』ではないでしょうか?
オモチャ、ぬいぐるみ・・・猫ではビニール袋、毛糸の紐などを食べてしまった結果、それら異物が腸に詰まる現象です。それらは機械的(又は物理的)イレウスと言われ、その他にも消化管に分布する血管・神経障害によって腸内容物が停滞する機能的イレウスがあります。
■機械的イレウス…消化管内異物、腸管癒着、腫瘍、膿瘍、寄生虫、結石、腸重積、腸捻転、ヘルニアなど
■機能的イレウス…神経因子(疼痛、消化管の炎症・出血・手術後、神経・脊髄損傷、膀胱拡張)、代謝因子(低K血症、糖尿病、尿毒症)、薬物因子(副交感神経遮断薬の長期投与、ビタミン欠乏)が関与
様々な原因で生じるイレウスですが、病態が進行すると深刻で脱水、消化管内での細菌増殖、多臓器不全に進行します。
症状は腹痛による活動性の低下(性格によってソワソワ落ち着きなく動き回る子もいます。)、食欲低下、嘔吐が見られます。閉塞の程度が軽度か重度かで症状も、重症化するスピードも様々ですが、イレウスの結果、消化管障害から腹膜炎が起きると緊急手術が必要になります。また、機能的イレウスを除くほとんどの症例で外科処置が必要となります。
ネコちゃんで毛玉による腸重積を発症したケースを紹介します。
品種:ブリティッシュ・ロングヘアー 4才 オス(去勢済み)
主訴:『昨日昼から頻回の嘔吐、チュールは少量食べたが、泡を口から垂らしている。』とのこと。
血液検査:CPK 736 U/l その他大きな異常なし。
レントゲン:消化管にガス貯留、液体貯留を認め、イレウスの鑑別の為造影剤(ガストログラフィン)を投与し造影検査を続けて行いました。下の写真は造影検査前、直後、1時間後、2時間後です。
造影1時間後、2時間後でそれぞれ小腸の部分的な拡大と、狭窄・欠損があり、機械的イレウスを疑う所見がみられました。
超音波検査:腸に液体がたまり腫れた小腸、また、二重に重なり合う小腸を確認しました。また、腸と腸の間の腸管膜脂肪は白く炎症が起きているようでした。
機械的イレウスを呈する腸重積を疑い、翌日、手術を行うことにしました。
超音波検査の画像です。腸の中に腸が入り込んでいます。
また、腸の間にはお腹の中の脂肪、腸管膜、膵臓などがあるのですが、炎症が波及している様子が確認されました。
手術の状況です。
重積をおこしていた部位は、壊死が進んでおり、切除し、残った腸をつなげて手術終了です。
壊死した消化管内には少量の毛玉が入っていました。
もし重積を整復して切除せず残した場合、再発する可能性、手術後に壊死が起こし命に関わる状況に進展しまう事があるので、問題が生じた部位は手術で切除することをお薦めします。※整復は容易ではありませんし、腸重積の多くは発見時に壊死を伴う重度な状況で発見される事が多いと思います。
消化管を手術した際、当院では24~36時間絶水絶食です。もちろん点滴は続けます。その後ゆっくり飲水を開始し、手術後2~3日で数ccの流動食を開始します。
吐き気が出なければ手術後4日程度で退院となります。
このネコちゃんは順調に回復してくれましたが、手術部位の腸がうまく動いてくれないケース、手術部位に炎症が起きて再手術を要すケースもあります。