心臓腫瘤の3症例

小手指ペットクリニック 2020年10月13日 - 22:10:32

いずれもワンちゃんの症例で右心房に腫瘤(シコリ)が出来ていました。

シコリ発見以前から心臓の疾患が疑われたワンちゃんもいれば、突然発症したワンちゃんもいます。今回紹介する心臓の右心房にシコリを形成する病気は、ワンちゃんで発生の多い“弁膜症”“僧帽弁閉鎖不全”とは異なり、治療に最善をつくしてもシコリが発見されて1~2カ月で天国へ旅立ってしまうほど進行が速い悪性腫瘍である事が多いです。血管肉腫という悪性腫瘍が有名で、脾臓・心臓・肝臓・皮膚での発生が多いですが初めにどこの臓器で発生するか決まりはありません。脾臓や皮膚で発生した血管肉腫が他臓器に転移する事もあれば、転移しないこともあります。全身どこに発生しても進行の早い恐ろしい腫瘍である事に変わりはありません。発見が早く手術で完全摘出され完治する事もありますが、多くのケースで転移、浸潤を伴い手術後に再発してしまいます。

腫瘍細胞を根底から撲滅させ病気を完治させる事は困難なケースが多く、特効薬もありません。抗がん剤で進行を遅らせ、ステロイド使用により若干の症状緩和、生活の質の向上を目的とした治療がなされます。

 

■ケース1

15才 パピヨン オス(去勢済み)

既往歴:甲状腺機能低下症、慢性鼻炎、胆泥症

発症2か月前:トリミングで来院の際に心雑音が初めて聴取

心臓のシコリ発見時 『昨日から咳をする』との主訴で来院

【身体検査】体重 3.42kg 体温 37.8℃ 呼吸速迫、開口呼吸、軽度心雑音あり

【血液検査】白血球数上昇(18200/μl)、高窒素血症(BUN 56.4mg/dl)、肝パネル上昇(GPT ,ALP)、炎症マーカー(CRP >7.0)

【レントゲン検査】肺に白い影あり

 

【処  置】

肺水腫と診断し酸素室下で治療を開始しましたが、肺の白濁が改善しないことから心臓エコー検査を行い心臓(右心房)に腫瘤を確認しました。脾臓に2cmほどの結節ができていました。レントゲン検査で確認された白い影は肺水腫ではなく、心臓・脾臓に発生した腫瘍が肺に転移した結果、肺に結節を形成したものと判断しました。

 

【治  療】

3泊酸素室入院して呼吸は安定し、食欲も出てきたので退院としました。

自宅にも酸素室を設置していただきました。

心臓の弁膜症治療としてピモベンダン、肺の血管拡張薬シルデナフィル、肺に結節を形成する病気で真菌・細菌もフォローする必要があるため抗真菌薬イトラコナゾール、抗生物質エンロフロキサシンを処方しました。

退院2週間後には『咳が酷くなった』との連絡を受け、肺の血管拡張薬シルデナフィルを増量

 

残念ながら右心房のシコリがだんだんと大きくなってしまっています。

退院4週間後には『さらに咳が酷くなり、酸素室から出ることができなくなった』との連絡を受け、ステロイド剤の追加、シルデナフィルの増量を行いましたが、その後まもなく天国に召されました。

 

■ケース2

15才 M.ダックス メス(避妊済み)

既往歴:両目の硝子体変性症、慢性歯肉炎

『ウンチの後、急に倒れて尿失禁した』との主訴で来院

【身体検査】体重 5.3kg 心雑音なし。呼吸が荒く肺炎様のゼーゼー濁った音あり

【血液検査】大きな異常なし。軽度白血球数減少(7200/μl)、ALP 334U/l、Ca 13.1mg/dl

【レントゲン検査】心臓の拡大、肺に白い影あり

 

【心臓エコー検査】心のう水貯留、右心房に腫瘤を確認

【処  置】プレドニゾロン 1日1回

心のう水が少量確認されましたが、心嚢水を抜かず内科療法で様子を見ることにしました。

1ヶ月間、プレドニゾロンで普段通りの生活を送っていました。

  

その後、心のう水が急速にたまり(上の写真3枚目)、当院で心のう水を抜く処置をしたのですが、帰宅後天国へ行きました。この子はプレドニゾロン(ステロイドの一種)で1ヶ月!!元気に過ごす事ができました。特に通院もせず、自宅で普段通りの生活を送れた事は本当に良かったと思います。また、最期に苦しい時間が長く続かず天国へ旅立ったのは良かったと思います。心臓や肺に病変が起きると多かれ少なかれ呼吸が苦しくなります。この子は後足のフラツキが亡くなる一週間前から顕著でしたが自宅での酸素吸入も必要なく、大好きな家族の見守る中旅立っていったとのことです。

 

■ケース3

14才 パピヨン オス(去勢済み)

既往歴:特になし

発症3週間前に『最近、散歩中に砂を舐めるようになった』と相談があり、胃もたれなどの胃腸障害があると砂などの異食癖が出ることがあるので胃腸薬を処方し経過を見ることにしました。

発症2週間前に『水平眼振があり、1回嘔吐した』との主訴で来院

特発性前庭疾患と判断し、抗生物質及びステロイド治療を実施したところ、翌日には正常に戻り元気になりました。

『急に呼吸が辛そう』との主訴で来院されました。

【身体検査】体重 2.82kg 呼吸は速く、肩を上下させ辛そうな呼吸をしている

【血液検査】貧血(PCV 24%)、腎パネル上昇(BUN,CRE)、肝パネル上昇(ALP 315U/l)、炎症マーカー(CRP >7.0mg/dl)

【レントゲン検査】心臓の拡大、肺に小型結節多数あり

 

【エコー検査】右心房に腫瘤を確認、心のう水微量貯留

【処置】抗生物質、プレドニゾロン 1日1回

二次診療施設で精査をしたところ、右心房に22mmの腫瘤、肺に無数の粟粒性結節があるとのこと。血管肉腫の肺転移であり、腫瘤からの出血が起きた際には呼吸困難、喀血、呼吸停止等の体調急変の可能性があるとのことでした。

この子は二次診療施設での診察後、深夜に自宅で亡くなりました。最後まで呼吸は苦しそうであったものの、著しい呼吸困難、苦痛に苦しむ表情はなかった。最期、飼い主様がふと目を離した際に息を引き取ったそうです。飼い主様は『飼い主思いの優しい子だった。』と仰ってました。

 

犬の心臓腫瘍について

心臓に発生する腫瘍は、

・血管肉腫(69%)

・ケモデクトーマ(大動脈体腫瘍)(8%)

・リンパ腫(4%)

と言われ、その他は稀と言われています。

線維肉腫、横紋筋肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫の報告はあるものの、心臓という臓器の特徴から生前にこれらの確定診断が得られるケースは少ないです。

ケース2のM・ダックスさんの場合、プレドニゾロンの使用によって劇的に元気になったので『リンパ腫』だったのかな・・・と考えています。

ケース3のパピヨンさんでは肺の結節性病変が多数あるにもかかわらず『咳』の症状がありませんでした。呼吸器疾患では『咳』症状が顕著に出ることが多いですがこの事例のように咳がなくても念のためレントゲン検査をすると病気の発見の近道になる事を痛感した症例でした。

有効な治療法がない病気、手術でも完全に取りきれない病変、苦痛を伴い進行が早い病気・・・

飼い主様にとって受け入れがたい現実です。治療に苦痛が伴うのでは・・・と考えてしまいますよね。

心臓にシコリを形成する病気では最期は『息が苦しい』などの苦痛を伴う事が多いです。酸素室も慣れないとかえって緊張してしまうケースもあります。

当院では腫瘍科アドバイザーに相談する事で、第3者からの意見を聞く事も可能です。

是非とも不安に思う事、分からない事があればご相談ください。