犬の消化管腫瘤(リンパ腫)の一例

小手指ペットクリニック 2020年06月22日 - 19:06:31

『4・5日前から急に歩かなくなり、ドライフードを食べなくなった』との主訴で来院

日常的に起こりうる症状ですが、お腹にシコリができていたワンちゃんの一例です。 

血液検査では、白血球増加、高血糖、リパーゼ高値

腹部超音波検査で消化管腫瘤を確認

消化管に発生した腫瘍の可能性が高い旨オーナー様へ説明し、後日手術する事になりました。

 

手術の後、腫瘤の病理検査結果は『リンパ腫(T細胞性、高悪性度)』でした。腫瘍細胞の細胞分裂も盛んで、腫瘍細胞が腫瘤周辺にまで浸潤していました。

  

手術後3日目から少しずつ食事を始め、体調は安定していたため手術後4日で退院。

手術後14日で手術部位の抜糸と抗がん剤治療を始めました。

 

多剤併用プロトコル(UW25)を行うこととし、毎週あるいは隔週で抗がん剤治療を始めました。元々は食欲旺盛なワンちゃんでしたが抗がん剤副作用により食欲減退、下痢等の副作用が度々出ました。性格がとても明るいワンちゃんで、副作用が収まると本当に元気になってくれて、活発な生活を取り戻してくれました。

抗がん剤治療開始5ヶ月で腫瘍の再発が見られ、治療法を変更する事で腫瘤が縮小しましたが寛解(腫瘍がなくなる)までは効果が得られませんでした。

抗がん剤治療開始6ヶ月が過ぎ、活動性が落ち、下痢が続くようになり天国へ行きました。

 

 

Q:6ヶ月間、幸せな時間をどれだけとれたのか・・

すべての飼い主様は、あらゆる治療に不安を感じています。それはペットに苦痛を与えたくないという思いです。ペットが犬であれネコであれ、その他いかなる小動物であれ、『治療』が『苦痛』なのであれば、治療したくないという思いが皆さんあると思います。残念ながら大半のペットは動物病院での『治療』を『苦痛』と思っています。それは事実です。ペット自身が動物病院での治療を好むケースはほとんどありません。ペットに嫌われても私たち動物病院スタッフにできる事は、動物病院での『治療』を『飼い主様との生活を幸せな時間に結び付けること』だと考えています。もちろんペットの為にできる事、すべき事は治療以外にも多々ありますが・・・

 

さて、治療によって飼い主様との幸せな時間をどれだけ作る事ができるのか!という命題に対して6カ月という期間は少し短いと思う方が多いのではないでしょうか。

私もそう思います。できれば1年程度は快適な時間を提供できるよう祈って日々治療に当たったのですが、結果を残す事ができませんでした。当該一例のワンちゃんはT細胞性高悪性度リンパ腫で、データ上も生存期間中央値5.5ヶ月に類似した経過をたどりました(T細胞由来のリンパ腫は予後が悪く長期生存は望めません。リンパ腫でもB細胞性では生存期間中央値8ヶ月で2年以上の長期生存する可能性があるのです)。

『抗がん剤治療しても6カ月程度の命なので治療は止めましょう!』と治療を諦めるべきでしょうか・・完治しない病気と向き合うのは大変なことですが、多くの患者様は治療をして良かった!!ウチの子は最後まで頑張った!!病気の事を忘れるほど元気になった!とおっしゃいます。

リンパ腫は全身の組織で発生する可能性のある悪性腫瘍です。中~高齢のワンちゃんでの発生が多く造血器腫瘍の90%を占め、度々遭遇する腫瘍であり、抗がん剤治療に対して最も良く反応する腫瘍です。ワンちゃん、ネコちゃんともにある程度発生頻度の多い腫瘍です。

リンパ腫については、①抗がん剤治療に対して反応が良いケースが多い事、②重篤な副作用が起こるケースが少ない事、③ある程度長期(1年以上)飼い主様との幸せな時間を取り戻せる事が多い事 の理由から今後も全力で治療する事をお薦めしていきたいと思います。

ただ、腫瘍の種類、発生部位、ペットの性格、費用 様々な要因で治療方法も異なります。恐らく何の病気に対する治療でも当てはまることと思うのですが、最善の治療は必ずしも1つではありませんので、ご不明な点はその都度担当獣医師へお話しくださるのが良いと思います。

 

リンパ腫は、リンパ球由来の悪性腫瘍です。残念ながら完治しないケースがほとんどで、抗がん剤治療を行っても3~12か月で亡くなるケースも珍しくありません。腫瘍の悪性度、転移の有無、抗がん剤の治療効果は様々ですので、余命や副作用の有無を治療開始時点でお伝えする事は困難です。リンパ腫の治療は外科手術、放射線治療、抗がん剤、その他内服薬、免疫療法、ホメオパシー、漢方、サプリメント・・・様々な治療方法があると思います。

どの治療法が、我が子に最善なのか・・・悩む患者さんも多いと思います。

それぞれ一長一短あり、当院で対応できない治療もあります。ご不明な点はご相談ください。